東京高等裁判所 平成10年(う)128号 判決
被告人 加藤宏こと高正官
〔抄 録〕
諭旨に対する判断に先立ち、まず職権をもって原判決の法令適用の当否を検討するのに、原判決は、罪となるべき事実として、被告人は、何ら権限がないのに、平成九年五月一五日、原判示の衣料品雑貨販売店において、第一 不正の目的をもって、原判示別紙一覧表(一)記載のとおり、アメリカ合衆国ナイキ・インコーポレーテッドが原判示のとおりに商標登録を受けた商標であり、かつ、我が国において広く認識されているブーメラン様の形をデザインした絵柄商標ほか七種類の登録商標(原判示別紙一覧表の「被侵害商標」欄の<1>ないし<8>の登録商標)と類似する商標を付したスニーカー等九二点を譲渡のため展示し、もって、同社の各商標権を侵害するとともに、同社の商品と混同を生じさせて不正競争を行った、第二 原判示別紙一覧表(二)記載のとおり、右絵柄商標ほか七種類の登録商標(原判示別紙一覧表の「被侵害商標」欄の<1>ないし<6>、<9>、<11>の登録商標)と類似する商標を付したスニーカー等五八一点を譲渡のため所持し、もって、同社の各商標権を侵害した旨の事実を認定し、これに対する法令の適用に当たり、第一の所為中、商標法違反の点は侵害した登録商標ごとに同法七八条、三七条一号に、不正競争防止法違反の点は混同を生じさせた登録商標ごとに同法一三条一号、二条一項一号に、第二の所為は、侵害した登録商標ごとに商標法七八条、三七条二号にそれぞれ該当し、右第一の所為中の各違反行為、第二の所為中の各違反行為は、それぞれが観念的競合の関係にあるとして、第一、第二のいずれについても商標法違反の罪の刑で処断し、懲役刑を選択した上、第一の罪の刑に併合罪加重を行い、その刑期(懲役一月以上七年六月以下)の範囲内で処断していることが明らかである。しかしながら、関係証拠によれば、本件は、被告人が、韓国から原判示の登録商標に類似する商標を付した商品を入手して、これを原判示の一つの店舗で次々と販売していたことが認められ、前記<1>ないし<6>の登録商標についてみると、被告人は右登録商標に類似する商標を付した一群の商品を右店舗に譲渡のために展示して商標権を侵害するとともに右登録商標に類似する商標を付したこれも一群の商品を右店舗に同時に譲渡のため所持してその商標権を侵害したことが明らかである。このような営業の実態や商標権侵害の態様に照らすとき、各商標権に関して包括して一個の商標権侵害行為が成立するものと解するのが相当である、そして、前記<1>ないし<8>の登録商標に関する原判示第一の各商標権侵害行為は一個の行為が複数の罪名に触れる場合にあたるから観念的競合の関係にあり、前記<1>ないし<6>、<9>、<11>の登録商標に関する原判示第二の各商標権侵害行為も同様に観念的競合の関係にある。また、原判示第一の商品主体混同行為(不正競争防止法違反)は全体として一罪と解され、これと同第一の各商標権侵害行為とはやはり同様に観念的競合の関係にある。この結果、結局、以上を一罪として最も重い罪の刑で処断すべきことになる(懲役刑を選択すると、処断刑は懲役一月以上五年以下ということになる。)。したがって、原判示第一の罪と同第二の罪とを併合罪として処断した原判決の法令適用には誤りがあり、本件の場合、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。原判決は破棄を免れない。そこで、本件趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄した上、同法四〇〇条ただし書により当裁判所において更に次のとおり判決する。
原判決が認定した罪となるべき事実(ただし、「第一」とあるのを「一」と、「第二」とあるのを「二」とする。)に法律を適用すると、判示一及び二中、前記<1>ないし<6>の登録商標についての各商標法違反の点は、登録商標ごとに包括して同法七八条、三七条一、二号に、前記<7>及び<8>の登録商標についての各商標法違反の点は、登録商標ごとに同法七八条、三七条一号に、前記<9>及び<11>の登録商標についての各商標法違反の点は、登録商標ごとに同法七八条、三七条二号に、判示一中の不正競争防止法違反の点は、同法一三条一号、二条一項一号にそれぞれ該当するが、右一及び二は、それぞれ一個の行為で複数の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条を適用し、さらに、前記<1>ないし<6>の登録商標についての一及び二の商標法違反の点は登録商標ごとに包括一罪の関係にあるから、結局、以上を一罪として刑及び犯情の最も重い前記<1>の登録商標に類似する商標を付した商品を譲渡のため所持・展示して商標権を侵害した罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で、被告人を懲役一年二月に処し、情状により、刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(門野博 下山保男 福崎伸一郎)